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特許分析を活用した事業上の意思決定に向けたDBJが金融機関の立場で顧客と伴走する論点探しの旅

PatentSight Summit 2024 講演記録

佐無田 啓地域調査部 調査役株式会社日本政策投資銀行

日本政策投資銀行の佐無田と申します。

今日最初に日本政策投資銀行(DBJ=Development Bank of Japan)自体についてお話しします。次にパテントサイトと一緒に実施している特許の分析サービスの中身を説明します。その事例を本日三つ用意しています。セクション3では、どういった分析をしているのかを二つ説明し、セクション4では、分析に至るまでの論点探しをどのように実行するかを一つ、まとめという内容でお話しします。

私は2012年に日本政策投資銀行に入行しました。最初に配属された部署が、環境CSR部です。環境格付け、つまりお客様(顧客)の環境マネジメントの取り組みを評価し、それを融資の条件に反映させる商品を統括している部署で仕事をしていました。最初から財務情報というよりも、非財務情報を取り扱うのが最初のキャリアでした。

2016年に九州地方の営業にも携わり、2018年から産業調査部に入りました。こちらでは機械業界、電機・半導体関連業界を担当しながら、2019年にはパテントサイトの手法を知ったことで、コンサルティングサービスの立ち上げに関わりました。入行当時から会社の価値は財務だけではないとずっと叩き込まれてきましたが、知財も非財務情報の一つなので、活用の可能性があるのではないかと考えたからです。

現在は地域調査部で調査をしています。ここはどのように特定の地域から課題を解決していくかを考える部署で、引き続き特許の分析にも携わりながら業務に携わっています。

DBJ(日本政策投資銀行)はもともと日本開発銀行が前身です。株式会社化されたのが2008年、資本金は政府全額出資、つまり財務省が株式の100%を保有する、いわゆる政府系の金融機関です。総資産額は21兆円、だいたい大きめの地銀と同じぐらいの規模です。ただ、口座業務はないので、一般の方々にはあまり知られていません。

歴史的には、戦後の復興、高度成長の産業インフラなど、長期の融資による資金供給を担ってきました。そこから平成に至り、環境エネルギー対策、地域経済の活性化、などに注力してきました。足元では、例えばリーマンショック時、地震災害時などにおける資金繰りや資金供給を円滑にするなどの業務をしています。

そのほかのキーワードとして2008年以降の下の欄、二枚目のスライドにある、「投融資一体」があります。通常の銀行のビジネスと証券的な投資ビジネスとは、違う会社で行なうものですが、DBJはそれらを一体で行なえるポジションにあり、リスクマネーの供給などの役割も担ってきました。

そうした背景のもとに、(今でこそサステナビリティ社会は強調されるようになりましたが)早い時期から長期的、中立的なポジションを活かし、経済価値だけでなく社会的な価値にも着目して企業活動をしてきたのがDBJの特徴です。

この組織図でハイライトしている部署が、パテントサイトと一緒に仕事をしている部署です。組織図を左から見ていくと、左側の大部分が営業部門です。そして右に転じて投資部、さらに右に転じて金融商品の部門となりますが、その隣にハイライトした調査部門があります。調査部門の中で、本日紹介する取り組みを行っています。

では、当行が提供している分析サービスを説明します。

そもそも金融機関がなぜ特許を扱うのか。これは皆さんが最初に気になる部分かと思います。足元の金利は徐々に上がってきていますが、私が入行して以降の時代はずっと低金利でした。こうした中ではお金ではなかなか差別化ができませんから、提案内容で差別化するしかありません。お客様に情報をいただくにしても、理由がないとなかなかいただけません。そんな状況になりましたが、特許分析はこの、対話をしてお客様の情報をいただくという観点で極めて有効でした。仮にあまり知見のない技術分野であっても、特許分析によって、注目を促せる図表を示すことで、より深い会話を進めることができます。対話のきっかけに使えるところが、特許を今、活用させていただいているポイントです。

調査分析はお客様と一緒に作り上げていきますが、その使い方は、DBJからお客様に提供する中で分析していきます。今日来場されている皆様は多くが知財部の方々と思いますが、その観点から見ると、知財部から社内のある部署、あるいは社外に情報を発信することと、当行がお客様に分析のソリューションの提供を支援するのとは似た構図です。これから紹介する内容も、そのように見ていただければと思います。

パテントサイトと連携した特許価値分析なので、数字としてはパテントサイトの数値を活用し、分析しています。

右下に事例をいくつか載せています。お客様からは例えば次のような論点をいただきます。競合の開発動向が知りたい、スタートアップに投資をしたいが実際に何をしているのかを技術的により深く見たい、商品開発を検討する中で他社がどういう特許を権利化しているか、またそこから市場が求める技術は何かを洞察したい、さらにその技術戦略に関する内容を投資家にどう説明すればよいか知りたい、など。これらに特許分析を絡めて、さまざまなサポートをしています。

方法はきわめてシンプルで、特許情報から得られるインサイトからどのような事実が見られるか、また個別のテーマから今、開発のどこがどうなっているかなどを判断します。あるいは、その先に必要なアクションは何か、M&Aであれば、その技術がどのような事業に適用可能なのかといった議論をしています。

分析の事例をご紹介します。お客様の事例をそのまま出すことはできませんが、具体的に示すため、複数のお客様の事例を混合することで、限りなく事実に近いがフィクションにしたものをいくつか用意しました。

一つ目の事例の対象の会社は、新規事業としてドローンの製造を検討中のメーカーで、物流用にどうすべきかを検討されています。

背景となったのは他の競合メーカーです。特許価値を比べることで、競争優位性の確保を念頭に、事業上のポジションから必要となる特許が押さえられているかを確認したいと考えています。分析の目的は、自社の注力分野の中での特許価値を明らかにすることです。

その結果、ある程度のマーケットの支配力や、技術的な優先性が確保できることがわかったとき、事業の中でどのように説明をするかについては、この会社にはすでに方法がありました。特許分析の目的も、その説明の材料の一つとして使うことでした。

成果物、つまりアウトプットは、オーナーによる特許の活用意図がわかる分類を独自に行い、各社の特許ポートフォリオを図示したものになります。ここから、戦略的な意図を洞察していたというものです。イメージできたでしょうか。

ここを説明します。

その前に、特許の絞り込み作業がかなり大変な作業として存在します。物流向けのドローンというくくりはあらかじめ用意されたものではありません。ですから対象の規模を絞り、そこからテキスト検索や公報の確認をして、物流に関するキーワードを、トランスポート・アスタリスク(transport*)のような形で絞り込みます。次にそこからバグ取りを行います。例えばトイドローンに関するものや撮影用途がメインのものを除いていきます。これはヒヨコのオスメス判定のように、これは違う、これは合っている、を繰り返しながら、分析の目的に足りる精度まで絞り込むわけです。

またこの作業にかけられる工数には限界があるので、目的にかなう形まで落とし込むことができるか、工数とのバランスが非常に重要だと思います。ヒヨコのオスメス判定のような種類の作業では、今後、AIなどが人間に取って代わる可能性もあると思います。

では、どういう図表を使ったかを示します。

まず、そのオスメス判定でうまく技術が分けられたとします。

左側の図表は時系列で左上に特許件数、左下に特許価値を示しております。

今回の対象となっている会社はオレンジ色の線で示した会社です。

通常ですと、左側の上下の二つの図表で見ていくものになりますが、一つの事例なので、右側に同じ情報を出しています。

仮にその対象企業を比較可能な技術分類で技術分野を絞り込むことができればですが

右側の図の縦軸に、特許件数、特許価値それぞれをパーセンテージで示すことができます。

これは疑似的に特許の件数、価値のシェアとして示すことができるため、よりわかりやすく、当該分野の中でオレンジの会社がどれくらい割って入れるかを図示することができると考えられます。

では立場を変え、かつてこの分野でトップだった青色の会社からは何が言えるでしょうか。現状は必ずしも好ましいとは言えませんが、では、他のシェアを拡大している会社がどの分野で技術を積み上げているのか、技術をどのように製品サービスに落とし込んで顧客に提供しているか、などの観点を加えていくと、この立場からでも十分その先の洞察に使える見せ方ができると思われます。

ここでどういった技術が延びているかを、公の分類でさらに細かく分けていきます。そちらを示したのがこの図表です。

恣意的ではありますが、特許の活用意図がわかる形で独自に分類をし、タグ付けをしています。右側に凡例を載せています。

青色は飛行の制御に関する技術です。オレンジ色は配送に関する技術で、例えば、荷物を安全に下ろす、運ぶ際に中身が崩れないといった技術を示します。他の分類も細かく分けていき、整理した結果がこうなっています。

これを見ると、物流向けのドローンでどのような技術が推移してきたかが一目でわかります。例えば、青色の機体制御の技術は、半数程度で安定して推移していますが、足元は、オレンジ色の配送関連の技術が伸びてきていることがわかります。

つまり当初は飛行の安定や制御の技術に力点が置かれましたが、現状ではどう配送するか、配送場面に合わせてどういう技術を適用するかなどに力点が置かれる、そうしたトレンドがあるのではないか、という洞察に至るわけです。

さらに先ほどの図とこの図を組み合わせ、会社ごとに分析すると、その会社がどの技術を伸ばそうとしているかがわかります。さらにそこからどう配送するかまで類推できるため、より戦略的な意図の洞察につながると思います。洞察を得るほか、どう使うかについて、立場によってかなり見方は変わってくると思います。

例えば、社内で活用する場合、知財が競争軸になるときは、特許のポートフォリオをより強くしようとする発想になります。しかし既に特許で有利なポジションを築いているなら、事業の次の課題は販路の構築になりますから、知財以外の論点につながりますし、その技術の優位性を把握しているなら、顧客に届けるときのサービスをどう改善するかの検討にも役立てることができるでしょう。このように、社内で論点をより広げる活用方法が見えてくると思います。

では説明相手が投資家の場合はどうでしょうか。投資家には、期待する収益や稼ぎ方があります。そこで、そのために必要な技術を会社が既に保有しているかどうか、また、稼ぎ方のストーリーは、同じ会社の異なる部門の方が持っていると思いますから、そこを補強する材料を提供できるか、あるいはその稼ぐモデル、つまりストーリーに対して不足している知見があるなら、それを獲得するためにどういう取り組みが必要なのか、これらも、企業が将来稼げる形を作っていることを投資家に理解してもらうために十分有用な情報になり得ます。

こうして見ていくと、特許分析の使い方は立場によっても変わることが理解いただけると思います。

2つ目は、バイオケミカル関連の比較的大きな会社を想定した事例です。

その会社は、出資会社があり、連携先の会社や、潜在的な競合会社を把握したいと考えていました。分析の目的は、該当分野に属するすべての特許から、それらを保有するすべてのオーナーの潜在的な連携先や競合先を選り分けることです。アウトプットはシンプルで、潜在的な連携先のリストを多く出すことですが、ここで必要になのは、徹底して俯瞰して見ることだと考え、このスライドを用意しました。

まず、左側に関しては、目的に対応した企業群特許価値の上位の会社をパテントサイトでおなじみの図表で横軸を特許の件数、縦軸を一件あたりの特許の平均価値とバブルで総特許価値で示すというバブルチャートでまず見てみることが、オーソドックスな最初の見せ方だと思います。

この目的に照らすと、上位の会社だけでなく、左側の図では見えない会社をどう見せていくかが論点になると思います。その場合、右側の横軸を工夫して、各オーナーが保有している特許の中で、あるバイオケミカルの分野に入っている特許がどれぐらいあるかを割合で示したものにします。

言い換えると、企業が、その分野にどれだけ知財として注力しているのかを表すことで、ある種の専業度を示すことが可能です。

通常はなかなかしないのですが、右側の横軸において見せる会社数を徹底的に増やしてみます。例えばこれを200社にすると、右側の図のようにかなり小粒なバブルが出てきます。

その中で例えば、横軸の専業度が25%以上の会社を選び、そこにどういう連携先があるかを探すのも有用な活用方法の一つだと思います。この作業をしていると、場合によっては、競合先が見つかるケースもあると思います。

さらに細かく、先ほどの図から分析を進めていきます。ここでは保有特許に占めるこの分野の技術割合が5%以上の会社を30社程度ピックアップしています。

対象としている会社は、今後、競争優位を保つために重視している分野です。IPC(国際特許分類)のある分野でCのaaと書いています。この図表だとオレンジの派生に関わった箇所になります。

潜在的な競合探索という左側の図は、特許価値全体の上位の会社から見がちですが、この場合、上位の会社では、重視している分野でそこまで脅威になる会社は出てきません。そこで他の会社を探索すると、右側の図表で上から三番目のF社が出てきます。そこで、本来の脅威はこの会社ではないかと気づき、F社が持つ特許のポートフォリオをさらに分析していく、という流れができるわけです。

競合を探していく観点では、引用の分析を活用するのも有用な方法の一つです。それが自動車部品メーカーを対象にした事例です。

その対象とした会社、某先行技術として引用する会社を見て、平均的特許価値と特許の引用率で示したのがこの図です。偶然、左側の図表のように、ある北米のスタートアップの会社の存在を発見しました。調べてみると、このスタートアップは、その対象会社の競合会社が出資した会社でした。こうして、潜在的な脅威に気づくという結果が得られたと言えます。

ここまで事例を二つ紹介しましたが、立場や状況によって特許分析の使い方は大きく変わることがご覧いただけたと思います。

ここで示しているのは、戦略の考え方の一つで、ありたい姿から逆算する方法です。我々は、知財自体は全社の戦略を支える戦略の一つと考えています。特許分析と戦略の関係を見ていくと、特許のデータとは過去のデータなので、その客観的なデータで現状を把握し、理想に向けて課題をどう克服するのか、これ自体が戦略ストーリーになります。

先ほどいくつかの事例で紹介しましたが、特許分析だけではすべてを説明することはできません。特許分析は万能ツールではなく、他の情報による補完、ストーリーの組み方、企業の目的に応じた使い方などを確立することで、戦略にとって優良なツールになり得るものと考えています。 次のページが21年6月に改訂されましたコーポレートガバナンスコードの中身です。

左側に五つの原則、右側にそれに向けた七つのアクションを列挙しています。ガバナンスコードの改定にも書かれている通り、企業はバックキャストという形での戦略構築が求められていると理解しています。この左側の図の左下にロジックストーリーとして開示、発信していくところがあります。この点が特許分析を会社の取り組みに反映させるうえで、極めて重要な論点だと思います。 さらにそれを進めるにあたって行うのが右側のアクションです。右の一番上のところに「現状の姿の把握」とありますが、お客様と話していて、ここが一番難しいと考えています。私どもは、この部分で、いかにお客様をサポートできるかを意識して、コンサルティングサービスに取り組んでいます。

これが、当行が提供するコンサルティングのプロセスです。

左から、フェーズを4つの段階にわけてイメージしています。最初は、分析にあたってのイメージを明確化していく「フェーズ0(ゼロ)」です。そこから経営戦略に関わる「フェーズ3」に向かって、事実を見つけて個別の分析をしていく「フェーズ1」と「フェーズ2」を繰り返していきます。

先ほど説明した分析事例の紹介箇所とは、フェーズ1とフェーズ2のことです。多くの会社ではこの部分は既にしっかり終え、社内、あるいは社外への提案まで至るケースは今、非常に多くなっていると思います。

ただ分析だけでは、そのデータから読み取れることは何か、これを見てどういうアクションにつなげるべきか、といったポイントを、提案を受けた側から打ち返され、そこで迷う会社がかなり多いことを実感しています。

そこで特に重要になるのが一番左です。フェーズ0で、「イメージの明確化」とありますが、最初の段階でいかに論点を特定していくかが、この特許分析の活動を戦略に活かすうえで最も重要だと考えています。

最後にこのフェーズ0の論点特定の事例を一つ紹介します。

事業を良くしていくことが目的であれば、フェーズ0の段階から特許以外の情報にアクセスすることが極めて重要です。そこに産業調査を組み合わせて情報を生み出していくことが有効です。この点からも、我々が調査部でこうした取り組みをしていることがご理解いただけると思います。

この図表と特許情報をいかに経営情報に接合していくか。順序としては、第一に「論点」があります。それに関連する経営情報を出して、それを説明するための特許情報が何か、こういったところから、実際のアクションにいかせる情報生成につながると思います。

例えば、製品群、技術領域の情報ですと、公の分類を組み合わせることで、自社他社の比較に使います。あるいは上から三番目、他の会社や業界からどれくらい注目されているのかの場合、外部引用を使い、製品開発の方向性や提携先探索などを行って示唆を得ていく流れになります。

一つ付け加えますと、実はフェーズ0の前に、マイナス1と呼べるような段階があります。最も地道なデータですが、意外にこの部分に大きな労力がかかります。ただ、データは世界中にあるため、日本語でしかアクセスできない範囲のデータから始めてしまうと、最後のフェーズのところで、それが大きく影響してきます。ですからこの段階では、できるだけ多くの情報に当たることが非常に重要だと考えています。

ここで事例です。

スライドのタイトルはちょっと失礼な内容になっていますが、この会社では、最初に、新規事業の具体施策としてある会社に出資したい、という話をいただきました。

その出資をするために、社内で決定する必要があるため、分析から何か材料を出せませんか?という問い合わせをいただきました。つまり資料の中で他社と比較して、技術力を査定した情報などです。うまく表現できた場合は、投資を決裁するうえの背景材料として使っていきたいということでした。

私どもの作業は、その会社が保有している特許に関する技術領域を特定し、この会社の要望に沿って、忠実に図表を示しました。これが左側の図です。

対象企業は図中のYと赤字で点を打っているところです。

平均的な特許価値は高いのですが、この先、技術分野を特定していくと、かなり製品の設計などに依拠した技術を多く持たれていることが明らかです。

買収後のプロセスを想定すると、出資後に本体の事業部門とどう連携させるのか、その中に出資の意図をどう伝えるのか、という論点が、最初に寄せられた論点からは出てきません。

また、この会社が得意としている分野はあるが、例えば素材関連の分野ではなかなかカバーしきれていません。となると、ご依頼された会社は、その技術を持っていれば問題はないことになるし、持っていないとすれば、最初から論点設定が少しずれていたのではないか、という疑問が浮上してきます。

そこで、最終的に示した図表は、素材と構造と製造といった技術に分類し、赤字で示した対象会社の得意分野を右側の図で、さらにメーカーのサプライチェーン、バリューチェンの上流から下流までを図示したときに、どこに当てはまるかを示しました。

これによって、お客様の論点に加えて、この会社に出資をする意図や、その後の取り組みは、本当に現時点で考え得るものかを示しました。

こうした分析をしても、ここから先にどうしていくかを想定する姿勢が基本にないと、次のアクションにつながりません。またこの先、技術をどうモニターしていくかという取り組みともなかなかつながりません。つまり、今後の実行フェーズまで想像しながら分析をしていく姿勢が重要であることを再認識した事例です。

これは実は失敗した例です。(フィクションにしてありますが)この対象会社へのその後の取り組みはうまく続きませんでした。

振り返ってみると問題は、役員の方の業務範囲の認識が、論点を寄せられた時から少し狭かったこと、また、全社の事業を想定した問題提起でもなかったことでした。そのため、その先の取り組み、つまりフェーズ3の戦略構築の段階まで活かしきれませんでした。分析ではお客様と良いディスカッションをできたにも関わらず、先につながらなかった事例です。

最初の一つ目と二つ目の事例でご紹介したフェーズ1と2の作業に関しましては、AIがかかる作業を今後かなり省力化できるという期待が持てます。

その中で極めて重要なのは、繰り返しになりますが、フェーズ0の段階で論点をいかに特定していくか、例えば相手の問題意識をどう把握するか、社内でも社外でも提供した分析は今後どう使われるのかなどについても疑問を繰り返していくこと。こうした作業が、全体の作業を戦略にまで活かす大きな取り組みにとって極めて重要です。

ここまでの事例は、比較的大きな会社の事例ですが、特許分析自体、知財のメリットの提示から進めることもできます。ご紹介した内容は、必ずしも大企業だけでなく、小規模な事業者でも取り組める内容だと思います。

最後に強調したいのは、銀行と一般企業ではどうしても、実際のビジネスへの理解の差、知財そのものに対する理解の差があることです。もちろん私どもは銀行なので金融に対する理解はありますが、知財に対する理解はまだまだ努力して深めなくてはなりません。それでも差が生じるのは避けられないと思います。

しかしその中で社内外の方々と、この分析を言わば一つの絵、論点を掘り下げる材料に使って一緒に考えることのできる環境づくりをするのが、今後、こうした取り組みを広げる大きなポイントだと思います。

データベンダーも例外ではないので、レクシスネクスもお客様とこういった対話を重視することが極めて重要になっていくと思います。

最後のまとめです。特許の分析は、きわめて有力な対話ツールだと思います。ただ分析というものは、「だから何なの?」という疑問に答え続けなければいけないという苦しい作業でもあります。その中で最善という形はありません。それは説明相手によっても変わりますし、同じ分析であったとしても、ストーリーによっても、説明の仕方が変わってくることがあるからです。

論点の特定を最重要視し、相手先の論点に寄り添うことが極めて大切です。私どもの立場では、お客様の論点をまず疑う、次の論点を予想する、そしてその先の先、お客様のお客様が何を知りたいのか、という視座から情報を提示することでしょう。これを実行していく中で、より良い取り組みになると思います。

もちろん、特許分析はスモールスタートで問題ないし、大きな会社だけのツールではないと思います。ただ、論点の特定にはかなりの負担がかかりますから、外部からどのようにサポートするかは今後の大きな課題ですし、社会全体として取り組むべき課題であると思います。

今後も、社内社外問わず、皆様とともに、論点を作ることのできる環境づくりに励んでいきたいと考えています。

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